続・真(ま)フランスの日常

フランスの時事、フランス生活の実態、エコライフ、日本を想う日々・・・                                    (ココログで綴っていた「真(ま)フランスの日常」 http://mafrance.cocolog-nifty.com/ の後継ブログです) 反核・反戦!

「もうムハンマドは描かない」の真相

我が家にとっては珍しく、泊まりの来客があって更新が滞ってしまいました。

 

そしてそんなときに限って、無視できないニュースが舞い込んでくるものなのです。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

ムハンマドの表紙で世界的に有名になった風刺画家、LUZ(リューズ)が「もうムハンマドを描かない」と言った・・・

 

 

というニュースが29日から30日にかけてフランス全土を駆け巡りました。

 

 

新聞も雑誌もテレビもラジオも、皆示し合わせたように同じようなタイトル。まるでLUZが記者会見を開いてムハンマドを描かない宣言をしたかのような報道ぶりです。

 

 

真相を確認するべく、彼に独占インタビューをした「les inrocks(レ・ザンロック)※」を入手しました。

 

 

(※「les inrocks(レ・ザンロック)」こと「les inrockuptibles(レ・ザンロッキュプティーブル=incorrubtible腐敗しない、不変の という形容詞をもじった言葉)」は左寄りな内容で知られている娯楽週刊誌で、発行部数は週6万部弱。)

 

 

 

 「もうムハンマドは描かない」の真相

 

自身の絵に覆われたLUZが表紙を飾り、“独占インタビュー”の文字が躍っています。

 

 

タイトルは「LUZ la vie après(リューズのその後)」 副題は 「Catarsis, sa BD vérité(カタルシス、真実のバンドデシネ)」

 

 

10ページに及ぶインタビューの大半は、5月21日に発売される、テロ後の生活を絵日記のように描き綴った画集「Catarsis」について。

 

 

宣伝のためと言ってしまえばそれまでですが、読んでみると、話さずにはいられない彼の心の内が嫌と言うほど伝わってくる内容でした。

 

 

テロ当時、たまたま遅刻して現場にいなかった彼は、シャルリーの生き残りという重荷を背負いながら苦悩と葛藤に満ちた生活を送ってきました。

 

 

その間ずっと書き溜めてきた“絵日記”が精神的な苦しみを消化するのに役立ったと言います。

 

 

テロ直後から《僕の精神は錯乱状態で、脳の一部を壁に打ち付けたかのように同じシーンを反芻してばかりだった。》

 

 

仲間を失っただけでなく、彼らの無残な射殺体を実際に見てしまった彼は、明らかな心的外傷後ストレス障害にかかっていたのです。

 

 

あれだけの出来事の後に、何事もなかったかのように世の中を風刺するのは決して簡単なことではないでしょう。

 

 

それでも彼はシャルリー・エブドで風刺画を描きながら、それとは別に、頭から離れないイメージをどんどん絵にしていきました。

 

 

《でもその絵を仕舞ったままにすることに恐怖を覚えるようになった。本という形にすることで、手っ取り早く過去のものにしてしまう必要があった・・・》出版に至った経緯を、彼はこのように説明しています。

 

 

忘れることが不可能なら整理することで事実上のうつ状態から脱しようとしたのでしょう。

 

 

私は最初、「もうムハンマドは描かない」というタイトルの複数のネット記事を読んで、正直落ち込みました。

 

 

描かないという事実云々よりも、描かないとわざわざ言った理由が理解できなかったからです。

 

 

でもインタビューを読んでみて、リューズがそれを含めた心のうちを吐き出さずにはいられない心境にあることを知って、納得しました。

 

 

どちらにしろ、シャルリー・エブドにおける過去10年のイスラム教関連の表紙はたったの1%。描かない宣言をするまでもなく、今後も描かない可能性のほうが高いのです。

 

 

結局、今回もムハンマドに執着したのは同業者たちでした。

 

 

描くか、描かないか・・・そんなことにこだわるよりも、もっと労わりの気持ちをもってインタビューを読んだ同業者がいなかったことが残念でなりません。

 

 

 

 

〜リューズが語る「テロ後のフランス」〜

 

《テロの後、僕は掛かりつけの精神科医に聞いてみました。人々はテロの話をしているのかどうか。彼女は“その話しかしていない”と答えました。温度差はあれ、皆が同じ船に乗っている。僕は、テロリストたちが建物から出てくるのを見たけれど、その他大勢のデモ参加者同様、現場にはいなかった。それでも彼ら(デモの参加者たち)はショックを受けた。つまりは何かしら共有するものがあるはずです。2ヶ月ほどの怒りの時期を越えると、悲しみがやってくる。CHARB(リューズの親友で元編集長)やBernard Maris(同じく犠牲になった経済学者)を読み返せば、今度は落ち込む。そして怖くなる。フランスは恐怖を経験した。そしてそれは続く。シナゴーグや役所、駅前に警官がいる。その姿を皆が目にする。ある意味においてはフランス全体が僕と同じように護衛されている(※)と言えます。》

 

(※テロ以降、シャルリー・エブドのメンバーは常に複数のボディガードに護衛されながら生活しています。風刺画ではないコラムを一件書いているだけのメンバーでさえ、多いときで7人のボディガードがついていると言われています。)