続・真(ま)フランスの日常

フランスの時事、フランス生活の実態、エコライフ、日本を想う日々・・・                                    (ココログで綴っていた「真(ま)フランスの日常」 http://mafrance.cocolog-nifty.com/ の後継ブログです) 反核・反戦!

【トランプ勝利】フランス各紙の驚きと絶望

トランプ勝利の翌日、近所のキオスクで、手に入るだけのフランス紙を買ってみました。 (・・・って今頃の報告ですが)


まずはフィガロ紙 ↓

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ハリケーンを意味する「L'ouragan」という見出しで、トランプ勝利の勢いと恐怖を表現。


フィガロ紙は右派新聞らしく、「すべてのエリートに対抗する勝利」という見出しの記事を始め、エリート層の先行きを懸念する記事を複数掲載していました。

9面には、そのエリートたちが集うシリコンバレーの反応を紹介。選挙前に上層部150人がトランプを批判する共同声明を出したり、これまで共和党を支持してきた面々が今回ばかりは皆ヒラリーに投票するなどの対抗措置をとってきたものの、“惨敗”したと書かれています。

アメリカのエリート層とトランプの睨みあいはそもそもが、トランプが国内の問題をエリート層のせいにして宣戦布告したことに始まります。 ただし、お互いの言い分を詳しく見てみると、どう考えてもエリート層の言っていることが理にかなっていて、トランプは根も葉もないことを言って吠えているようにしか聞こえません。

トランプの発言を論破するために書かれたような同9面に掲載された記事によると、トランプのこれまでの演説を鵜呑みのすれば、とにかく経済成長を倍増させるのが目標だと豪語するものの、公約を一つ一つ予算に換算すると、国の借金が5兆3000億ドルも増える計算になるのだとか!

個人・法人税の減税は財源が不明だし、勝利演説でも強調していた公共事業の増加も「郊外に鉄道を張り巡らせる」と言っているだけで詳細は不明(日本みたいに無駄遣いで終わってしまいそう!)。

オバマケアの廃止は大多数のアメリカ人がせっかく手に入れた健康保険を取り上げてしまうことになるので実現困難。個人的にかなり思い入れがあるらしい“メキシコとの国境に壁を作る”という計画も、物理的に難しく実現したとしても膨大な予算をつぎ込むことになります。そして、エネルギー源を自国で賄うという約束は、石油採掘や石炭事業の再開を意味していて、環境を破壊するだけ!・・・と、財政破綻するばかりか、良いことなし。

個人的に開いた口が塞がらなくなった記事は、13面に掲載された科学に否定的なトランプ発言のあれこれ。 ワクチンは必要ないと言ってみたり(この発言は後に撤回したようですが)、タバコの害を否定したり、同性愛者の性的指向を“矯正”するためにエイズの研究はしたほうがいいと言い出したり、遺伝子組み換え作物こそ自然で安心できると断言したり・・・ アメリカ物理学会の代表に「アメリカ史上初の非科学的大統領」と言わしめるほどの暴言ぶりが紹介されています。

国家の長が科学を否定すれば、これまでの研究が意味をなさなくなるばかりか、今後の研究も独断と偏見で必要ないと判断されて研究費がカットされ研究者たちの多くが仕事を失います。

教育においても科学を軽視したり、場合によっては科学を悪と見なすようなマニュアルが強いられれば、アメリカの教育現場は深刻な事態に! それでなくても側近の一人であり、「ぜひ教育関連の重要ポストに!」とトランプが一押しするBen Carsonという脳神経外科医は、その職業とは裏腹に、世界が6日でできたと信じ、ピラミッドはヨーゼフが作ったと言い、「炭素14」で動植物の年代を測定する方法は信用しない、と言っていることで有名らしく、フィガロ紙の言う通り、まさに恐ろしい、の一言。 これは女性蔑視とか外国人差別発言以上に問題視するべきことかもしれません。



地方新聞 ↓

【トランプ勝利】フランス各紙の驚きと絶望

フィガロ紙と同様に、「Le séisme」という、地震を意味する言葉を見出しにして、今回の負のサプライズを自然の脅威になぞらえています。

最も興味深かったのは、「Les démocraties gagnés par le trumpisme (トランプ現象に負けた民主主義)」と題した地図付きの記事。

【トランプ勝利】フランス各紙の驚きと絶望

ヨーロッパだけでも、すでに9か国において同様の選挙結果が出ていて、特に極右が台頭する現象が各地で見られます。

次にトランプ現象のリレーを受け継ぐかもしれないのは、12月4日にやり直しの大統領選が控えているオーストリア!エコロジストとの一騎打ちに再挑戦するのは極右政党・FPÖ(オーストリア自由党)で、私が住んでいた頃は、“とっても怖〜い政党”という印象があっただけで、まさか数年後に大統領選で接戦になるほどに躍進するとは夢にも思いませんでした。それでなくても外国人にはかなり厳しいオーストリア(5年以内にドイツ語の日常会話を習得しなければ強制送還!※2008年当時)なので、極右党首が当選しなかったとしても、これからどう変わっていくのか注視したいところです。


ルパリジャン(地方ではAujourd'hui en France)

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いつも簡潔で分かりやすい、この日刊紙は、「これから何が変わるのか」と題して、選挙結果の詳細と分析中心の特集を組みました。

同紙恒例の街角インタビューでは、老若男女5人に「トランプが選ばれたことに恐怖を感じますか?」と質問したところ、4人が肯定的に答え、65歳のジャンピエールだけが「いや、別に」と完全否定していました。彼は、ロナルド・レーガンの任期中、人々が心配したほどのことは起きなかったことを例に挙げて「今回もフランスメディアが誇張しているだけ。重要なのは側近に恵まれているかどうか。どのみち政治を動かしているのは財界であって大統領ではないから。」と全く気に留めていない様子でした。

そんなジャンピエールの言う「誇張するフランスメディア」の一つ、リベラシオン紙は・・・

【トランプ勝利】フランス各紙の驚きと絶望

一面がほぼ真っ黒! 判別できるのは、薄っすらと棚引く星条旗の一部と、トランプの頭頂部、そして親指と人差し指を立てた右手だけ。この写真だけでも十分、恐怖のどん底という感じがしますが、「AMERICAN PSYCHO」という小説であり映画でもあるタイトルをそのまま見出しにして、トランプを「精神異常者」に見立ててしまいました。

【トランプ勝利】フランス各紙の驚きと絶望

2,3面では、それに輪をかけるように、「L'empire du pire(最悪の帝国)」という見出しをトランプの写真の横に超拡大フォントで載せ、更なる恐怖を煽ります(笑)

それだけではありません。特集記事は、これぞ総力特集と言える、全27面! 27面も割いて何を書いているかというと、社説に始まり、投票結果、アメリカメディアのあり方を問う記事、「L'affliction devenue réalité(不安が現実になった)」と題したトランプの人物像特集(全4面)、トランプを取り巻く人たち、ヒラリーの挫折、アメリカ貧困層の実態、アメリカ各地のトランプ陣営の写真特集、民主王国・ニューヨークの反応、世界各国の反応(全4面)に至るまで、ありとあらゆるテーマが入念に綴られています。 そしてその中には、他紙にはない、日本に関する記事までありました。


【トランプ勝利】フランス各紙の驚きと絶望
  Arnaud Vaulerinによるその記事は「米アジア関係の危機」と題して、アジアですでに孤立している日本がアメリカにも見捨てられたら・・・と、日本の将来を懸念しつつ、安倍晋三がここぞとばかりに改憲の必要性を訴えるのではないか、と分析をしています。 トランプが演説通りに動いた場合、日本にいる米軍はすべて撤退することになり、特に沖縄県民は願ってもみなかった形で米軍から解放されることになります。

ただし、拍子抜けするほど穏やかな勝利演説以来、“オバマケアはやっぱり廃止しない”とか“移民は不法滞在者や犯罪者を逮捕したり強制送還するだけ”などと、手の平を反すようなことを言っているだけに、日米関係の今後に限らず、あらゆることが予測不可能。

トランプがこれまで言ってきたことはウソばかりなのか、それともこれから少しずつ、リベラシオンが見立てた“精神異常者”のごとく、アメリカを、そして世界をどん底に陥れていくのか、蓋を開けてみなければわからなくなってしまいました。

ちなみに、トランプ勝利の翌日のシャルリー・エブドは・・・

【トランプ勝利】フランス各紙の驚きと絶望

オバマが一面でした。 (この風刺画は説明不要かもしれませんが・・・「一般市民に戻るオバマ」と題し、警官2名に今にも撃たれそうなオバマ大統領が描かれ、今アメリカで問題になっている警官による黒人連続射殺にかけています。) なぜ表紙がオバマなのかというと、シャルリー・エブドは週刊紙なので、トランプの勝利が決まった時点ですでに今週号が刷られていたからです。 なのでシャルリーの反応は水曜日のお楽しみ。 一体、どんなトランプがお目見えするのか・・・(ってトランプじゃなかったりして 笑)