シャルリー・エブドが描くトランプ&イスラムを風刺するアルジェリア人風刺画家
この記事で予告めいたことを言ったのに今頃になってしまいましたが・・・
トランプ勝利が決まった後のシャルリーの表紙(1269号)は、コレでした ↓
CHARLIE HEBDO 14 Novembre 2016 N°1269
題して、「この人に原爆ボタンを委ねてしまって、よかったのでしょうか?」
この風刺画の説明はいらないでしょう。
とはいえ、一応私個人の感想を述べると、「トランプの人物像を一枚の絵に表したり、選挙結果に対する戸惑いを一文に込めたりする才能もさることながら、ここで敢えて“原子力”に触れるあざとさが、お見事!」・・・と言うくらいでは物足りないくらいの出来栄えだと思います。
原爆を持ち出したのはもしかすると、「“脅威“という意味でトランプと原爆の類似性をかけている」のかもしれません。
ちなみに、今週号の風刺画の中で一番“面白い!”と思ったのは、この風刺画↓
「トランプ勝利―在米ムスリムに広まる不安」というタイトルの下に、ムスリム夫婦らしき人物2人が描かれ、夫がニカブを被った妻に「はい、こっち被って!」と急かしています。
夫が手にしているのは、アメリカの白人至上主義グループKKK(クー・クラックス・クラン)のシンボルとも言えるマスク。
KKKは選挙期間中にトランプを熱狂的に支持していたことで知られていて、イスラム教徒でも彼らのマスクを被っていれば安全かもね、と言っているわけですが、夫が妻にあるべき服装を強要する様子をイスラム教の女性の服装の在り方にかけて皮肉ってもいます。
それにしても、KKKのマスクをニカブの代わりに被らせようとするというシュールさがたまらない!
・・・なんて言うと、「また、イスラム教を差別してる!」と思われるかもしれませんが、実はこの画を描いたのは他ならぬ、Dilemというアルジェリア人風刺画家なのです。
彼はシャルリー・エブドのテロ後にメンバーに加わったうちの一人で、掲載される風刺画の数は少ないものの、そのほとんどがイスラム教を風刺しています。
ただし、シャルリーのメンバーに加わる以前からアルジェリアの日刊紙に風刺画を描き続けている彼は、イスラム主義者からの強迫が絶えず、何度も裁判を起こされ、アルジェリアでは実際に投獄されたこともあるそうです。
自分が生まれたときに強制的に与えられた信仰に疑問を持つことがあってもおかしくないのに、それを問題提起することさえ許されない、そして疑問や批判を絵にすればするほど命の危険が増す・・・
テロが起こるたびに「イスラムは寛容の宗教」とか「イスラムは平和的」などと弁護したり擁護したりする人がいますが、少なくとも上記の点においては全然、寛容でも平和でもないでしょう。(イスラム教を問題視したら命が狙われる可能性があることを「寛容」とか「平和」という言葉を使って肯定できる人がいたら教えてください。)
Dilemにとっては、命の危険と隣り合わせの生活が続く以上、イスラムに対する疑問は絶えないわけで、命を危険にさらしてでも描き続けます。
シャルリー・エブドの風刺画が議論を呼ぶたびに必ずといっていいほど聞かれるのが「また懲りずにこんな絵描いてんのか。」というような“感想”ですが、そう思う人たちは風刺画家たちが好きで命を危険にさらしてるとでも思っているのでしょうか?
彼らが懲りずに描くのは、そんなマゾヒスティックな理由からではありません。
それは、繰り返し描かれる事柄をいつまでたっても社会が問題視しないからです。
言い換えれば、もっと議論されてしかるべきことを世の中が注目するまで描き続けるのが彼らの使命なのです。
・・・というと、今度は「いやいや、だから、わかりにくい画を描いても意味がないでしょ?」という人がいると思いますが、なぜわかりにくいことが多いのかは、この記事に書いているので、ここでは繰り返しません。
とにかく、「トランプの発言」や「KKK」同様、「イスラム」も、世の中に迷惑を被っている人たちがいる以上、誰かが何らかの形で問題提起しなければなりません。
堂々と風刺したいのにそれが許されていないDilemは、その迷惑を被っている張本人であり、差別主義者とは程遠い存在のはずですが、なかなかそれを理解してもらうのは難しいようで・・・。