続・真(ま)フランスの日常

フランスの時事、フランス生活の実態、エコライフ、日本を想う日々・・・                                    (ココログで綴っていた「真(ま)フランスの日常」 http://mafrance.cocolog-nifty.com/ の後継ブログです) 反核・反戦!

今もシャルリー・エブドが差別主義者の集まりだと思っている人たちへ

2015年1月7日にシャルリー・エブドの会議室でテロが起きてから早二年。

 

 

『シャルリー・エブド』という固有名詞は、テロ当時の知名度を保ったまま。

 

 

その一方で、シャルリー・エブドや風刺に対する理解は全くといっていいほど進んでいません。

 

特に日本では、風刺の文化が存在しないために、知識人を含めた大多数の人々が「あんな絵を描く方が悪い」とか、「殺されても仕方がない」などと言って納得しあっているのが現状です。

 

その日本では、エマニュエル・トッドEmmanuel Todというフランス人社会学者の著書「Qui est Charlie ?(『シャルリとは誰か』←日本語タイトル)」が翻訳され、「シャルリーが悪い」という捉え方を定着させるのに一役買いました。

 

彼はシャルリー・エブドのテロの数か月後に書いたその著書の中で、ちょうど2年前の今日、フランス各地で追悼デモに参加した340万人を「カトリックゾンビ」と名付け、差別主義者の汚名を着せ、テロの理由を「移民差別」に限定してしまったのです。

 

「シャルリー・エブドがなぜあのような風刺画を描き続けるのか」という疑問を持つ以前に、そもそもが「風刺とは何か」ということを知らない人がほとんどの日本で、『Qui est Charlie ?』の日本語訳は大好評。「テロが起きるのはフランス社会がイスラム教徒に差別的だからだ」という見方を日本人に植え付けることとなりました。

 

 

 

フランスにイスラム教徒を差別する人が一定数いるのは事実です。

 

それは、極右が年々台頭していることを見ても明らかで、否定することはできません。

 

でもそれは、今もアメリカで有色人種が差別される傾向にあったり、在日韓国人が国家主義者に下劣な言葉を浴びせられたりしているのと同じで、いつの時代にもどこの国でも見受けられる現象の一つだと私は思います。

 

もし社会的な差別が原因でテロが起こるなら、イスラム教徒以外で差別を受けている人たちもテロを起こしてもよさそうなものですが、イスラム教徒以外による同様のテロは起きていません。

 

アメリカで無実の黒人が立て続けに警官に殺されていることが注目されたとき、黒人たちは同じ黒人を巻き込むような大規模なテロを起こしたでしょうか?

 

日本で居場所がなくなるほどの仕打ちを受けている韓国人は、これまでに無実の人間を巻き込むような自爆テロを起こしたことがあるでしょうか?

 

 

 

そもそもが、テロが起きているのはフランスだけではありません。

 

ここ十数年を振り返ってみれば、アメリカ・イギリス・スペイン・ベルギー、そして最近では移民を大量に受け入れていて差別主義とは無縁なはずのドイツでも、イスラム教徒によるテロが頻発しています。

 

と言うと、「でもヨーロッパで最もテロが多いのはフランスであって、差別が顕著なことを反映しているのでは?」と思う人がいるかもしれません。

 

では、中東で、同じイスラム教徒が宗派を理由に殺し合っているのは、フランスの差別とどう関係があるのでしょうか?

 

 

 

シャルリー・エブドが襲撃された2015年、世界では1万5000件のテロが起きました。

 

 

https://www.les-crises.fr/les-attentats-dans-le-monde/#!colorbox[129439]/1/

 

 

 

 

 

 

そのうちの一万件以上が、シリア・イラクなどの中東諸国や、アフガニスタン・パキスタンで起きています。

 

アフリカでこの年最もテロが多かったナイジェリアでも、そのほとんどがイスラム過激派組織ボコハラムによるものでした。

 

 

テロによる犠牲者約4万人のうち、イスラム教圏における犠牲者数は約3万2000人。

 

 

 

 

 

西欧で起きたテロの数や死者数とは、比較になりません。

 

 

 

「Qui est Charlie ?」を書いたエマニュエル・トッドはこの統計を知っても、「フランス人がイスラム教徒を差別するからテロが起きる」と白を切るつもりでしょうか?

 

もしくはフランス人がイスラム教徒に対して差別的だから、その憂さ晴らしに中東でテロを起こす、とでも言うつもりでしょうか?

 

難民を大量に受け入れて寛容だったはずのドイツ人たちは、テロが頻発するようになった去年から差別主義者に成り代わったのでしょうか?

 

数年前にテロが起きたスペインやイギリスでは、人々がイスラム教徒に差別的ではなくなったからテロが起きなくなったのでしょうか?

 

 

私には、「差別」をテロの原因することは、どう見ても無理があるように思えます。

 

 

 

 

中東やアフガニスタンなどでテロが頻発しているのは、イスラム国を始めとする「スンニ派」と、どちらかというと穏健派の「シーア派」が対立しているからです。

 

テロを起こしているイスラム教徒のほとんどはスンニ派ですが、彼らは、シーア派をイスラム教徒と見なしていません。

 

その逆もしかり。シーア派はスンニ派をイスラム教徒と見なしていないのです。

 

 

 

エマニュエル・トッドの著書の日本語訳には以下のような副題がついています。

 

 

「人種差別と没落する西欧」

 

 

これはフランス語の副題を訳したのではなく、本の内容を反映したものの様ですが、上に述べたようなテロの実態を踏まえれば、「西欧」を「イスラム諸国」に置き換えたほうがしっくりこないでしょうか?

 

シーア派を差別するスンニ派、スンニ派を差別するシーア派、そのどちらも異教徒を差別し、無神論者は容赦なく殺す・・・

 

人種差別をしているのはイスラム教徒であり、自らの行為によって没落しているのもイスラム諸国だと言えないでしょうか。

 

 

 

「テロが起きるのはフランス人がイスラム教徒に差別的だからだ」という発言には、もう一つ不可解な点があります。

 

それは、「差別が原因」とする多くの人が「テロリストはイスラム教徒ではない」と言っていることです。

 

「テロリストはイスラム教徒ではない」なら、なぜテロの原因が「イスラム教徒に対する差別」になるのでしょうか?

 

わかりにくいかもしれないので別の言い方をします。

 

 

「イスラム教徒ではないテロリスト」が、イスラム教徒のために“仕返し”をしているのはなぜなのでしょうか?

 

 

この二つの意見は、どう頑張っても辻褄を合わせることができません。

 

 

 

シャルリー・エブドの面々を始めとするフランス人を差別主義者呼ばわりしている人たちは、今一度、テロの実態と各自の発言を照らし合わせて、考え直すべきだと思うのです。