続・真(ま)フランスの日常

フランスの時事、フランス生活の実態、エコライフ、日本を想う日々・・・                                    (ココログで綴っていた「真(ま)フランスの日常」 http://mafrance.cocolog-nifty.com/ の後継ブログです) 反核・反戦!

フランスの大学に「イスラモ左翼」思想が潜んでいる?

2月中旬、フランスの高等教育・研究相、フレデリック・ヴィダルの発言が物議を醸しました。

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(先週の日曜日2月21日、レキップ紙と共に入手した刊紙「Le Journal du Dimanche」。高等教育相のインタビューを始め、1~6面で特集が組まれた。)

問題の発言は「“l'islamo-gauchisme(イスラモ左翼)”がフランスの大学に存在するかどうか調査する」というもの。

これを受けて、左派系議員からブーイングを受けたのはもちろん、大学教授600人が大臣の辞任を求める署名を提出するなど、大きな反発を呼びました。

マクロン政権になってから教育相や内相も時々発するこの「イスラモ左翼」という言葉は、日本語で馴染みがないのはもちろん、フランスでも市民の間ではあまり頻繁に使われる言葉ではありません。

「イスラモ左翼」とは、どんな政治的思想を指すのでしょうか?

「イスラム」と「左翼」がくっついているので、その二つが手を取り合って生まれる思想だろうというのはだいたい想像がつきますが・・・

実はこの言葉、Pierre-André Taguieffという歴史学者が、2000年にパレスチナで起きた反イスラエルデモに現れた、イスラム過激派組織と左翼勢力の同盟を表すために作った造語だそうです。

フランスの高等教育相は、そんな“過激な”思想がフランスの大学に潜んでいる、もしくはすでに蔓延していると睨んでいるわけですが、これには根拠があります。

時をさかのぼること約5年,フランス各地の大学で、一定のテーマを対象に、講演会・討論会・朗読会・演劇などが中止(または延期)されるようになりました。

以下のフィガロ紙の記事で詳しい経緯が綴られていますが、中止になったイベントの一例を挙げると、

https://etudiant.lefigaro.fr/article/censure-menaces-violences-la-difficile-liberte-d-expression-dans-les-universites-francaises_16709950-d0d2-11ea-ab5c-a9f66a0b9ed5/

  • ナポレオンに関する講演会
  • ギリシャ神話「Suppliantes d'Eschyle(救いを求める女たち)」の演劇鑑賞会
  • Charb(シャルリー・エブドの元編集長)が残した文章の朗読
  • 過激化予防に関する取り組み 
 
などがあります。


ナポレオンは、他国を征服することや、奴隷制の復活を正当化することにつながるからダメ・・・

ギリシャ神話は、神話そのものではなく、当時ソルボンヌ大学で予定されていた演劇で、出演者が肌を黒く化粧する演出が予定されていたからダメ・・・

Charbは「ムハンマド」を描いたり掲載したりして、多くのイスラム教徒を傷つけたから、それが画だろうが文章だろうがダメ・・・

過激化予防の取り組みは、“善良な人(特にイスラム教徒)”がいつか過激化することを前提にしているからダメ・・・


とまぁ、大多数の賛同を得られそうなものから、重箱の隅をつつくようなものまでさまざまですが、これらのイベント禁止には、一つだけ共通点があります。

それは、左派、特に極左が敬遠していること。彼らが目の敵にする「白人・異性愛・父権を主とする社会」から“脱する”ための革新運動の邪魔になりそうなものを排除しようとした結果、これら大学のイベントなどにいちゃもんをつけることになり、“差別主義者”呼ばわりされた主催側は中止を余儀なくされたのではないかと考えられます。

ナポレオンは実在したわけで、その歴史を学ぼうとしたり議論したりすることは、別に悪いことではないはずです。ギリシャ神話の演劇は、演出に黒人を差別する意図はなかっただろうし、顔を黒く、もしくは黒っぽく表現した芸術作品のすべてを指摘していてはきりがありません。Charbに関しては、私が何を言っても賛同者は限られているとは思いますが、個人的には、彼の風刺画や文章は今見ても読んでも素晴らしく、惜しい人を亡くしたという気持ちは変わりません。そんな私と同じようにCharbを称賛する人は他にも少なからず存在していて、学校機関でその良さを広めようとか、それについて議論してみたいと思う人がいるわけで、彼らにはその自由があるはずです。

なので、これらのイベント中止(または延期)に疑問を持ち、対処しようとした高等教育相は、間違っていないと私は思います。

ただ、彼女が犯した重大なミスは、その原因をつくっている人々を「イスラモ左翼」呼ばわりしてしまったこと。

Le Journal du Dimancheの特集の中で、左派とイスラム過激主義の関係に詳しいジャーナリスト、Jean Birnbaumは言います。

「“イスラモ左翼”と呼ばれるためには、まずイスラム過激主義の存在を認めなければなりません。(フランスの)左派はそれができていない。彼らがイスラム過激主義に対して好意的な態度を示しているとすれば、それは政治的な戦略と言うよりは、無知だからです。イスラム過激主義が世界的に拡大していることに目を向けようとしない。いるとすれば“イスラモ左翼”ではなく、“左派中心主義”でしょう。」

 

Birnbaumの言う通り、左派の多くは、イスラム過激主義をないものと見なしているので、「イスラモ左翼」の名付け親の定義からは完全に外れています。

つまり、Birnbaumの解説通りなら、フランスの大学には「イスラモ左翼」はいないことになります。

でも、左派が気に入らないイベントが大学で予定されるたびに(今はコロナ禍でどの道開催されないけど)、どこからともなく活動家が駆け付け、学生を巻き込み、イベントを阻止しようとする例がフランス各地で見受けられたのは事実。

そして、そのやり方が、「左翼」の名に相応しく、乱暴な性質を備えているのも事実。

英語圏から流れてきたとも言われるこれらの運動が、フランスの表現の自由を脅かし、奪ってしまう前になんとかしなければなりません。

果たして、ヴィラン高等教育相は、どんな調査結果を報告するのでしょうか??