ベストセラーな有料選挙
日曜日、来年5月に控えている大統領選挙の中道・右派予備選挙の第一回投票がありました。
候補者は7名、うち共和党(元UMP)現職議員が6名(残りの一人はキリスト教民主党の党首)。
投票権のあるフランス人なら誰でも投票できる公開選挙ですが、一票につき2ユーロを支払う有料選挙でもあります。
我が家が子育てで忙しかった2012年の大統領選の前にも同じ形式の社会党予備選挙がありましたが、興味を持つ余裕さえないうちに、いつのまにか終わっていました。そして、数週間前の11月8日にはエコロジストの予備選挙があったそうですが、我が家は「エコロジーだけで政治はできない」という信条があるので、こちらも候補者の名前すら知らないまま終わってしまいました。
が、今回の中道・右派予備選は、公共放送やニュースチャンネルを始めとするあらゆるテレビ局が挙って公開討論を放送して大きな話題を呼び、これまで予備選には無関心だった旦那さんも投票してみることに!
・・・というわけで、例によって、旦那さんの投票に付き添ってきました。
日曜日のお昼前、「昼食時なら空いてるだろう」と思いながら投票所の市役所に出向くと・・・
長蛇の列!
さっと終わらせて昼食にするつもりだった我が家はやむを得ずUターン。午後に出直すことにしました。
昼食を取りながらニュース番組を見てみると、「正午の時点で110万人以上が投票!」というテロップが出ていて驚かされました。2011年の社会党の予備選では同じ時間帯に70万人だったそうで、今回の選挙がかなり注目されていたことが伺えます。
16時、再び市役所に出向くと、人の出入りは途切れていないかったものの、長蛇の列は消えていて、数分並んだだけで私たちの番がきました。
従来の選挙以上にリラックスムードが漂っていて、同行するほうも気が楽です。
投票部屋に入ると、まず、テーブルの端に貼り付けてあった“憲章”が目に入りました。
“私は中道・右派の価値観を共有します。そして、フランスを立て直すために、相互努力に努めます。”というようなことが書かれています。
文末の“相互努力に努めます”の部分は意味不明なので、砕けた言い方にすると、「社会党政権になってから、フランスはどうみてもナヨナヨしくなったよね。こらからフランスを立て直すために一緒に頑張ることを誓うよ。」という感じになると思います(たぶん)。
ちなみに私の友人の一人は、右派(の憲章)に同意するのが嫌だから投票しない、と言っていました。
この憲章の横には有権者リストがあって、それにサインすると、憲章に同意したことになります。
今回の予備選にあたって、社会党支持者も社会党が勝ちやすそうな右派候補に投票するだろうと言われていましたが、こんな踏み絵の逆バージョンみたいなものを前に、みんな平気でサインしたのでしょうか?
有権者リストの横には、候補者7名の名前が書かれた投票用紙が並んでいました。
これを通常の選挙と同様に一枚ずつとって、封筒をもらった時点で2ユーロを払いました。
封筒に入れるのは一枚だけなので、残りの6枚は捨てることになり、簡易投票室のゴミ箱・・・ではなくて無造作に備え付けられたゴミ袋がいつも通りに膨らんでいます。
投票室を出て、投票箱に封筒を投函して、再びサインをして・・・
投票完了。
こちら ↓ は同じ市役所内の別の投票部屋。
予備選はすべて党の経費で賄わなければならず、フランス全国の投票所の数は限られています。私たちが出向いた市役所には、その市の有権者だけでなく、郊外や周辺の市町村の有権者も登録され、人によっては、投票するためだけ(しかも有料!)に、片道20分(!)かけなければならない場合もあります。その上、一カ所の投票所に数千人が登録されているため、着いたら何分も待たされるというオマケ付き。
そんな面倒な選挙、誰が参加するの!?
・・・と正直なところ思っていたのですが・・・
蓋を開けてみれば、なんと、380万人以上が投票したのだそうです!
有料選挙でこの数は、「さすがフランス」と言わざるを得ません。
しかも、投票結果は・・・
有力だとみられていた、サルコジ前大統領と元首相のアラン・ジュッぺを大きく引き離して、前首相のフランソワ・フィヨンFrançois Fillonが44%の得票率で圧勝!!!
(翌日の日刊紙に載った22時の途中結果)
何を隠そう、旦那さんが投票したのはこのフィヨンでした。(支持候補が圧勝したのは生まれて初めてらしい 笑)
フィヨンは公開討論の間にずっと「メディアが勝手に作った有力候補ではなくて、共感できる候補者に正直に投票してほしい」と訴えてきました。
もちろん、彼は右派なので、原発問題や環境保護に消極的だったりしますが、7人の中では一番まともなことを言っていたと思います。
そして、「もう政治はやめる」と言っていたのに再び大統領になる意欲を燃やしていた大ウソつき前大統領・サルコジの倍以上の得票率を得たのは、それだけサルコジに嫌気が指していたフランス人がいた証拠でしょう。
フィヨンも元首相ですが、そのサルコジが大統領だったために、日の目を見ることなく職務を終えてしまった経緯があります。
とにもかくにも、義務でもないのに投票所に足を運び、2ユーロを払ってまで投票し、アメリカ大統領選とは逆に、メディアの偏向報道や世論調査を良い意味で裏切ってくれたフランス人たちは、まだまだ捨てたもんじゃありません。
決選投票はフィヨンvsジュッぺ
(翌日(今日)の地方新聞の一面。「ジュッぺ対フィヨン―サルコジ抜きの一騎打ち」 左がジュッぺで右がフィヨン。)
今回ようやく本気で(?)政界から引退することにしたサルコジ同様、ジュッぺも古株の中の古株。
共和党が保守的なうえに、大御所が居座り続けるフランスの伝統も手伝って、立候補表明当時は支持者だけでなくメディアからもヨイショされていたジュッぺですが、サルコジがフィヨン支持を表明した今、彼が勝つ可能性は無いに等しいと言えます。
そして、フィヨンが勝てば、 極右党首が大統領になるのを阻止できるかもしれない、微かな希望さえ沸いてきます。
更なるどんでん返しが起きませんように!