フランスの“ランドセル”
つわりのせいで息子の送り迎えを再開できないまま、息子が小学校に入学して、最初のバカンスが始まってしまいました。
フランスに入学式はなく、初日から突然普通の授業が始まるだけなので、“晴れ姿”を逃したとは思わないものの、一緒に登校できずにいるのは寂しいものがあります。
バカンスが明けたら、週に数回のペースで送り迎えができるように、体力を少しずつ回復したいところです。
さて、息子の小学校はそれまで通っていた幼稚園の近くにあって、通学路はほぼ同じ。制服もないし、クラスメートもほぼ同じ顔触れで、傍から見て大きな変化と言えば・・・
かばんが小学校用に変わったことくらい。
バカンス前に“入学準備リスト”が配られ、最初の項目が「un cartable suffisamment grand(十分な容量のある通学かばん)」。
日本のようなランドセルのないフランスでも、小学校入学とともにカバンを新調するのはフランスも同じで、夏休み中に大型スーパーなどに様々な色や形の通学カバンが並んでいました。
http://www.dad3zero.net/201408/choisir-cartable-rentree/
とはいえ、この写真を見てもわかるように、女の子はピンクor紫系、男の子はブルー系、特に紺色が多く、そのほとんどにキティやスパイダーマンなどの、数年来フランスの子供たちに愛され続けているキャラクターがプリントしてあります。しかも、そのほとんどが2,30ユーロという低価格で、耐久性が疑わしい・・・
う〜ん、こんな感じの物しかないのだろうか?
起き上がれない私を置いて、息子と一緒にカバン選びに出かけた旦那さんも、「なんかいまいち」といいながら、手ぶらで帰宅すること数回。
近所では納得のいくものは手に入らないと判断して、ネット上でのかばん探しが始まりました。
最初の検索ワードは、「cartable coton bio(通学用かばん オーガニックコットン)」。
すると、3年前に息子に買い与えたカバン(※)のオーガニックコットンブランド「coq en pâte」の製品がずらっと出てきました。
すっかりこのブランドの存在を忘れていましたが、ホームページには、通学用かばんは息子が幼稚園で3年間使い続けたものと同じタイプしかなく、小学校で使えるような大きさは見当たりません。
狙いを変えて、今度は「cartable écologique(環境にやさしい通学用かばん)」と打ってみました。
そして・・・
見つけました!
1978年創業のフランスの“ランドセル”ブランド「tann's」。(はい、カタカナ表記は「タンス」です 笑)
創業当時は、“学校用カバンといえば「tann's」”と言われるほど、小中学生が挙って背負っていたブランドだそうですが、安価な輸入品に押されて90年代に廃業。
それから約15年が経ったある日、懐古的で価値あるものを探し求めていた30代の実業家に見出され、2006年に復活!
再開にあたって、できるだけ環境に優しい製造方法が取り入れられ、ペットボトルを再利用したシリーズが看板商品に!
・・・という、時代に振り回された過去を持ちつつ、時代の先を行くことに成功した、素晴らしいブランドがあったのです。
さっそく、ホームページで息子に合う通学かばんを吟味。
驚いたのは、フランスのブランドなのに、「野球」シリーズがあったこと!
息子はWiiで“なんちゃって野球”をしたり、私がイチローの勇姿をYoutubeで見せたりしているので野球の存在は知っていますが、フランスの一般家庭で野球が好きな子供は滅多にいません。
つまりはコンセプトミスでは?と思ってしまうような思い切ったデザインなわけで、売れ行きがどの程度のものなのか、老婆心ながら気になってしまいます。
野球のほかには、柄のない単色もしくはツートーンのものから、ラグビーシリーズや、ブランドが創業した1978年の「78」という数字をメインにしたものまであって、迷いました。
結局、息子が選んだのは・・・
ラグビーシリーズの、キャリーなし(66,9ユーロ也)。
まず、なぜラグビーかというと、ちょうどその頃、オリンピックでラグビー日本代表が頑張っていて、更にラグビー教室の夏のお試しクラスで実際のラグビーに目覚めたところだったから。ついでに旦那さんの故郷がオーベルニュ地方で、ASM(フランスで一二を争うクレルモン・フェランのラグビークラブ)のファンということも決め手になりました。
そして、キャリー付きは「小さい背中に重いものを背負わせるのは見てられない」と思って選ぶ親が多いようですが、息子の場合、大した距離を歩くわけでもないし、衛生上の観点からもキャリーなしのほうが適している、ということで家族全員一致でキャリーなしになりました。
(届いたかばんを背負ったままテレビを見る息子)
(ペットボトルの再利用を示すタグ)
ただ一つ残念なのは、フランスのブランドとはいえ、中国製だということ。
フランスで作ると、人件費や諸税が中国の数倍かかって、小売価格はどんなに抑えても2倍近くになってしまい、カバン一つが100ユーロを超えてしまいます。
一つ30ユーロ前後の学校用かばんが定番となっている今、100ユーロではよほど経済的に余裕のある家庭しか興味を示しません。
中国製は生き残るための妥協策。
・・・とはいえ、もし 「tann's」のかばんがフランス製であることを理由に100ユーロ以上したとしても、我が家は迷わず買っていました。
なぜなら、フランスでは低所得者層に「新年度手当」が支給されるからです!
この手当は、低所得家庭の6歳〜15歳の子供全員に毎年支給されることになっていて、我が家にはなんと、息子一人のために、363ユーロも振り込まれました。
フランスの公立校の義務教育は無料なんだからそんなに必要ないでしょ!と批判や異論はあるようですが、我が家のように、片親働きで、ボーナスなしの公務員の場合はかなり助かります。
ただし、支給額すべてが子供のために出費されているかというと、そこはかなり疑わしい部分があり、バラ撒きと言われれば否定はできません。
手当が振り込まれたら、その多くが我が子にtann's(または同品質)のかばんを買い与えよう、と考える社会になればいいのですが、なかなかそうはいかないようで・・・
実際、「クラスでtann'sのかばん持ってる子いる?」と息子に聞いたところ、「男の子は〇〇だけ。あとは女の子・・・あっ、でも△△と☆☆だけかな。」という返事が返ってきました。
今後、tann'sが全盛期並みに売れる日は、やってくるのでしょうか?