大江健三郎の言葉を無視する国と称える国
ブログの更新が滞っている間の一大イベントは全仏観戦でしたが、一番気になったニュースはこれでした ↓
http://info.arte.tv/fr/kenzaburo-oe-grand-sorcier-de-la-litterature-nippone
5月25日から31日までリヨンで開催された「Les assises internationales du roman (国際小説会議)」に、作家の大江健三郎氏が特別ゲストとして招待され、その様子がarte(独仏共同出資チャンネル)のニュース番組で取り上げられました。
番組の中で大江氏は「数ページで世界中を虜にする文豪」と形容され、冒頭から原発に反対する強固な姿勢が紹介されます。
大江 「原子力を使い続けるうちは、もう事故は起きないとは誰も言い切ることができません。しかし、多くの人間が、まだ事故が起こる可能性があることを私たちに忘れさせようとしています。だから一刻も早くすべての原発を閉鎖するために英知を結集して力を合わせなくてはなりません。このことは、福島の原発事故が起こる前からずっと訴えてきたことであり、その意思が揺らいだことはありません。」
また、大江氏の作品に幾度となく登場するご子息、光氏についても以下のように語ります。
「光は障害を抱えていることを知っています。それでも彼は私たちに愉快に生きようと勧めてくる。彼は今50歳ですが、この50年間私が育てて来たのは彼ではなく私自身だったような気がします。」
最後に、大江氏は作家の仕事とは「言葉によって絶望を否定すること」だと述べ、大江氏の作品は、“夢に溢れる国、そして幼少期や自然界の限りない危険に満ちた世界に宿っている”と締めくくられます。
たった3分弱の報道でしたが、大部分は大江氏の言葉で構成され、arteが彼の発言に注目し、尊重していることが伺えます。
特筆したいのは、ヨーロッパ最大の原発推進国において、脱原発を訴える著名人の発言が公共の電波で堂々と紹介されていること。
原発ロビーが蔓延るようになって久しいフランスですが、民主主義や報道の自由はしっかり機能しているのです。
一方、日本のメディアはここ最近、大江氏の言葉を無視する傾向にあります。
“もう聞き飽きた”とでも言わんばかりに、大江氏が脱原発、反戦、護憲に関する発言をしても、ほとんど取り上げなくなりました。
更には、ここ最近政治的発言が目立つようになった村上春樹氏を「大江化している」と茶化すジャーナリストまで現れました。
恐ろしい話です。
大江氏が同じ発言を繰り返すのは、日本が一向に良くならないからです。
村上氏が政治的発言をするのは、いつになく日本の政治に危機感を抱いているからです。
祖国のあり方に警鐘を鳴らす作家たちの発言をこれほどまでに疎かにする先進国が他にあるでしょうか?
救いは、大江氏が番組の中で「小説家の仕事は絶望を否定すること」だと述べていること。
大江氏も村上氏も絶望しない。
一昨日のarteのニュースでは、日本で安保法制に反対するデモの様子が取り上げられました。
昨日は日本全国で多くの人々が反対デモに参加したようです。
安倍政権の終わりはもうそこまで来ているかもしれない。
例えそうでなくても、やっぱり大江氏や村上氏が正しかったんだ、という日は必ず来る・・・と私は信じています。