続・真(ま)フランスの日常

フランスの時事、フランス生活の実態、エコライフ、日本を想う日々・・・                                    (ココログで綴っていた「真(ま)フランスの日常」 http://mafrance.cocolog-nifty.com/ の後継ブログです) 反核・反戦!

「誰かを批判する意見が快くないと思っている日本人が多い」 古川日出男

福島の原発事故から、あと数週間で5年。

 

 

1月18日から26日まで、フランスのラジオFrance Cultureの『Hors Champs』という番組でフランス人に“意外な日本の姿”を知ってもらうための特別放送がありました。

 

 

http://www.franceculture.fr/blog-au-fil-des-ondes-2016-01-04-programme-exceptionnel-japon-du-18-au-26-janvier-dans-hors-champs-p

 

 

http://www.franceculture.fr/emission-hors-champs-1

 

 

番組の概要は・・・

 

《移民政策に消極的で宗教間争いにほぼ無縁の国において、脅威といえば自然が起こす災害に限定されている。原発事故がなかったかのように振舞う原発推進派の政府が牛耳る国で、知識人や文化人は“犠牲者が成仏できない今”をどう生きているのだろうか?Laure Adlerが、異なる世代の異なる感性に出会い、日本の未来の形を探る。

小説家、写真家、映画監督、そして自宅での長時間に及ぶインタビューを引き受けたノーベル賞作家・大江健三郎が語る。》 (ホームページより抜粋&日本語訳)

 

 

 

ゲストは・・・

 

 

古川日出男(小説家)

 

安富歩(大学教授)

 

是枝裕和(映画監督)

 

平野啓一郎(小説家)

 

杉本博司(写真家)

 

大江健三郎

 

 

 

 

・・・正直に言うと、番組を聞く前に私が知っていたのは是枝&大江の両氏のみ。

 

 

でもググってみると皆日仏両国、或いは世界で評価されている人ばかりで、実際に放送を聞いてみたら色んな意味で興味深く、考えさせられました。

 

 

 

ホームページで録音を聞くこともできますが、特に古川氏、平野氏、大江氏の日本語で回答している部分がかなり明瞭に聞き取れるので、その一部を書き起こしてみました。数回に分けて掲載します。

(フランス語を解し、尚且つ時間があるという方は以下のリンクで録音を視聴してください。個人的には安富氏の回がお勧め♪)

 

http://www.franceculture.fr/emissions/hors-champs

 

 

 

 

France culture 『Hors Champs』連続特別番組Japon 

第一回 ゲスト:古川日出男

 

2016年 1月18日

 

 

Laure Adler(以下A):政治も経済も安定しているとされる国の一員であることは、あなたにとってどういう意味がありますか?

 

古川日出男(以下古):フランスという国内から見ると、日本は安定しているように見えるかもしれないんですけど、例えば今の若い子供たちからすると、生まれたときから日本っていうのは1980年代に比べると経済的にものすごく苦しい状況になっています。

また、政治状況に関しても、これも海外から見ると安定しているように見えるんでしょうけど、今の政権に対する意見っていうのは国の中で真っ二つに分かれています。日本人はあまり意見を二つに割ったりしないのに、こういう状況が起きているということは正直言うと、今何かが始まる直前みたいな気がしています。

 

 

 

A:どのように意見が分かれているのですか?

 

古:要するに日本はほかの国との軍事的なかかわりを持たずに平和国家を追求するのか、軍事的にも貢献して国外と連携して開かれた国になるのかっていう二つの問題に直面しています。これは19世紀の半ばに日本がアメリカなりロシアなりイギリスなりの圧力で初めて西洋社会に国交を開いたときと実は似ていると思っていて、日本人自身がこれからどうするか考えなくちゃいけない、刺激的でもあり危険な時期に入っているような気がします。

 

 

 

A:一見、福島で事故があったことは忘れられているように見えます。あなたは福島について著書を出していますが、言論の自由はありますか?

 

古:発言はできていますね。ただ、日本人の体質として誰かを批判する意見が快くないと思っている人たちが多い。それで結局ポピュリズムみたいな、とても心地いい言葉を持つ人たちの声がどうしても大きくなっていきます。

とは言え、原発に関して言えばこれは明らかに原発再稼働に反対する意見のほうが多いんですね。なのに今の政権はそれを無視して動かそうとしていて、なかなかこういうのも日本の歴史として珍しいと思っています。

 

 

 

A:政府が原発を再稼働しようとするのは、原発なしでは経済に影響が出るからでしょうか?反対デモをする人たちの意見は?反原発デモが時々行われているという情報はフランスにも届いています。とはいえ、参加者は少数派だと聞いていますが。

 

古:原発を再稼働しなくても、日本の今の状況はこのまま保っていけます。ところがこのままの状況で我慢できないのは、経済の世界でモノを作る製造業とかそういう経済業界がもっともっと電力を使ってモノを作って、もう一度世界中に日本のモノを売り日本の国力を上げたいと願っているからです。で、現政権を応援しているのが経済界なので、どうしてもそういう力によって原発の再稼働が少しずつ進んでいるという気がします。一番の根本の問題は、経済が回るっていうのは、今この時間に儲けたいということです。原発の問題っていうのは、40年後にどうなるのか、100年後にどうなるのか、10万年後にどうなるのかということなんです。誰もが未来に対する想像力よりも現在に対する想像力にしか心が向かなくなっているということを問題視していかなければなりません。

 

 

 

A:その未来についてですが、あなたの作品には、SFの世界、もっと正確には現在に限りなく近い近未来が描かれています。その未来には人間同士の関わりがどんどん薄れていく。あなたは日本の若者の将来をどのように思い描いていますか?

 

古:最初のSF的に見えるというところですけども、今の地球上はSFのような現実に溢れていると思います。例えば10年前の人たちに今のスマートフォンとかインターネットの発達とか想像できなかったわけで、そういう活動をする人たちが10年後にいると思ったら確実にSFに見えるわけです。日本に限らずフランスでも同じだと思うんですけど、今の子供たちは生まれたときにあったものが大人になると全部変わっているんで、この後のことはあまり想像できずに現在にしか集中できないプレッシャーの下にいるような気がします。そうやって現実にしか集中できない時代だからこそ、過去や未来を想像する想像力が必要じゃないかと思いながら自分の小説を書いています。

 

 

 

A:あなたにとって、その「現在」とは何ですか?私が前回日本に来たのは3年前ですが、スマートフォンはすでに存在していて、どこを歩いていても地下鉄でも電車の中でも皆が皆スマートフォンに視線を向けていました。世代を超えてスマートフォンに夢中になっているのは日本だけではありませんが、今の日本の場合は、本当にすべての人がスマートフォンを操作している。これにはどんな意味があると思いますか?現在に集中するためなのか、未来に目を向けることを避けるためなのか、それ(スマートフォンに没頭すること)が日本人の考え方に影響していると思いますか?

 

古:スマートフォンが日本の中で問題になっているとすれば、単純に現在に集中するだけじゃなくて、操作している間に音も聞こえなくなるし、見ることもできなくなってしまうことです。自分の外にある音や風景を見ないで済むからスマートフォンを見る。これがどうして日本で世代を超えて行われているかというと、日本の通勤電車などを見てもらってもわかるとおもいますけど、みんなものすごくギュウギュウに詰められていて、そういう時に周りを気にしてたら自分が保てない。だからみんなスマートフォンの操作に世代を超えて入ってしまっているんだと思います。ただそれは電車の中とかで自由が利かないときにそこから抜け出すためのいい手段だとは思っています。周りの音も周りの人の顔も服も何も見えなくなってしまえば日本の将来は危ういと感じます。これはスマートフォンと小説の一番の大きな違いで、小説も同じように目の前の通路に集中して周りの音が聞こえなくなり風景も見えなくなりますけども、同時に小説を読んでいる間は新しい音が聞こえて別な色や着る服や人の顔が見えてくるわけです。

 

 

 

A:日本でテレビをつけると、よくアメリカのドラマを目にします。テレビに限らず、大方目にする物にもアメリカの影響を強く感じます。日本におけるアメリカ文化を、小説家としてどう捉えていますか?

 

古:これは単純に戦争で負けてアメリカが占領に来てアメリカ文化が日本に何か影響を与えたということですよね?その前っていうのは、日本は鎖国というものをしていて、モデルにしている国というのはすべて中国です。中国の文学、音楽、衣装、そういったものが全て日本の文化に影響を与えてきた。ところが19世紀にイギリスが中国と戦争をして勝ってしまって、西洋のほうが中国より強いということになった。今は第二次世界大戦後のアメリカが強いというところからまだ日本は抜け出せずにいるんだと思います。何か文化のモデルがないと自分たちの文化を作れないという、脆い弱い構造を日本人の体質は持っていますね。ただ、それは弱点であると共に、手本とするモデルを一回体に引き継いだ後、細かく全然違うことを作っていくんです。これは日本人は自分で文化のガラパゴス化と言っているんですけども、小さな島に日本はいて勝手にどんどん細かく進化してしまう、そういう宿命を持っているから大きな文化、アメリカ文化みたいなものはまずは前提に存在してしまうんだと思います。

 

 

 

A:日本の知識人とは?

 

古:一番最初に日本は国論を二分しているという話をしましたけれども、日本人は何か意見があって反対の意見を言うところまではいけるんです。でも百人が百人の意見を持つようなフランスのような文化の成熟したあり方は持っていません。そこで小説家として自分でできるのは、賛成と反対の意見があるときに第三の全然違う意見を出すことです。この日本という国に対して第三の意見を出し続けることが一種のインテリなり小説家の役割だと信じています。

 

 

 

A:あなたの小説を読んでいると、一昔前によく言われていた「アンダーグラウンド」がよく登場します。裏の世界にあって表の社会からは見えないものなどですが、あなた自身が警鐘を鳴らす役割を担っていると思われますか?

 

古:そうですね。日本人はアンダーグラウンドなものが存在するということすら気づかないようにしています。でも確実にこの現実はアンダーグラウンドな力に囲まれているということを言い続けなければいけない気がします。ちょっとでも地面に亀裂が入ったらそっから吹き出るものがアンダーグラウンドな力です。そういう噴出する力があるということに気づかないと、これは例えではなく、5年前の大きな地震で地下から力がきた時に日本人が全部対応できなかったように、巨大な惨事のときに何をしていいかわからなくなってしまう。だから僕は常にアンダーグラウンドの周りにいて、(読者には)警告に近いものを感じてもらいたいと思っています。地震の少し前に東北の小説を書いたんですけれども、やはり地震の前に東北の歴史を書いてしまうことがこれから津波や地震に襲われる東北という地域に対しての警告だったと感じています。

 

 

 「誰かを批判する意見が快くないと思っている日本人が多い」 古川日出男

第十九回三島由紀夫賞を受賞した小説家。『ベルカ、吠えないのか?』(2008年/2011年)『馬たちよ、それでも光は無垢で』(2011年/2013年)『サウンドトラック』(2003・2006年/2015年)の3作がフランス語に翻訳されている。 ※( )内は日仏出版年